鰻(うなぎ)の稚魚のシラスウナギが歴史的な不漁! 前年同時期の1%しか獲れていない! と伝えられたのは、今年1月のこと。4年前、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されたことに引き続く、衝撃的なニュースだった。
それから半年、誰もが心配していた土用の丑の日が目前に迫って来た。
だが、仕事帰りに自宅近くのスーパーに立ち寄ると、例年通り、派手なのぼりと大量の冷凍パックが並んでいる。「奥さ〜ん、夏バテには鰻ですよ〜! 」というエンドレス・カセットテープも、響き渡っている。
あら、この様子なら不漁も関係なかったのね? いや、不漁のツケが回るのは、今から数年後のことだから、まだ判断はできないか……。
ついでに、昨年の丑の日の後、大手小売業者が、売れ残りの鰻を大量に廃棄していたというニュースのことも、ふと思い出す。
これは悩ましい。情報は多いが、答えは霧の中である。そもそも、本当の生態さえ、未だ不明な鰻である。わたしたち、食べてもいいの? いけないの?
さて、そんな折、仕事で日本橋にある老舗鰻屋の店主にインタビューする機会があった。
主人は「鰻は日本の食文化。冷凍ではなく鰻屋さんの鰻を、何かうれしいことのあったハレの日に召しあがってほしい」と熱く語った。
鰻屋さんの言い分であることは差し引いても、確かに子供の頃、鰻は特別にうれしい食べ物だったよね。
思い出したのは、郷里にある老舗鰻屋・Nのことである。
その店の鰻は、親せきが集まったり、お祝いごとがあった時だけ、食べることが許されたご馳走だった。
心は決まった。今年は丑の日でなく、次に帰省した時、母と一緒にNに行こう。
懐かしい思い出という、香りが鼻にツンと抜ける山椒の粉を振り掛けた、ハレの日の鰻に会うために。
=2018年7月13日掲載=