人が悪いようだが、テレビでいちばん面白いのは、放送事故ではないだろうか。
事故といっても、罪のないやつに限る。例えば、数年前に、BBCニュースで起きたハプニングは、まるでコントみたいだった。
ネット中継のインタビューに応えるコメンテーターの自室に、小さな子どもが踊りながら乱入。次に、慌てた母親が滑り込んできて、子どもを回収。この動画を見て、お腹をかかえて笑う人が続出し、その後、この家族は人気者になった。
さて、外出自粛の今、パソコンのZoomアプリなどを使ってリモートワークをしている人の間では、放送事故的ハプニングが、多発しているようである。
そういうわたしも、先週のZoom会議で、ちょっと楽しい経験をした。
「どこかで、猫の声がしない?」と、画面のSさんがいぶかしげに尋ねると
「すみません。ボクです」と、発言中のTさんが頭を下げた。
「え?」
次の瞬間、Tさんの画面に茶色いトラ猫の顔が大写しになってニャ〜と鳴いた。実は最初から膝の上にいて、画面ににじり寄ろうとしているのを肘で押さえ込みながら、何食わぬ顔で発言していたのだという。
保護猫だった子を譲り受けたそうで、どうやらTさん、メロメロのようだ。
Tさんと一緒に仕事をはじめて、もう7年近くになる。だが、このような非常事態でもなければ、猫ちゃんに会わせてもらえることもなかっただろう。
こんなハプニングが起きるのが、Zoom会議の人間臭いところ。
一方、初対面の人とZoomをする場合は、想像以上に緊張するのかな。気の小さいわたしの肩は、終わるとガチガチ、岩のようになっている。
次々に新しいコミュニケーションツールが現れては消えていく。
どれも便利で、可能性を秘めているが、その行き先は、猫の目のように気まぐれだ。
=2020年5月22日掲載=