先週、刺しゅう作家のNさんに会いにいった。仕事でお願いした作品の、進ちょくを確認するためである。
お宅は西武新宿線の沼袋。わざわざ行くには、ちと面倒くさい。だが「メールじゃなくて、直接見に来て!」という言葉に逆らえず、実は渋々、出かけて行ったのだ。
しかし、いざ伺ってみると、予想に反して話が弾み、ついつい長居してしまう。
数時間後「そろそろ、おいとまを…」とドアを開けると、あれ~! カンカン照りだった空から、雨がパラパラ落ちている。
すると「これ使って」と、ニコニコ顔のNさん。「駅に返しといて」という言葉の意味を理解できないまま、借りた傘を広げて10分程の道を駅まで歩く。と、駅の改札前に、傘入れが! なるほど、この街の傘は、街の人みんなの傘なのか…。
傘を返して、電車で高田馬場へ。1度下車して、駅前のドン・キホーテで水を買う。見ると、レジの前に、1円玉がぎっしり詰まった透明の容器が置かれている。募金箱かな?と、ガン見していると、「支払いに小銭が足りなかったら、使って下さ~い。ただし、お一人様、4円まで!」と、明るい声が、お店の人から。
自転車のシェアなんかは駅などでよく見掛けるけれど、小銭のシェアに出会ったのは、それが初めて。
「お前の物は俺の物。俺の物は俺の物」とは、ガキ大将・ジャイアンの、有名なセリフだが、みんなの1円玉をみんなで使うアイデアは、思いっきり新鮮。
物を持たない暮らしのクールさが、喧(けん)伝されて久しいけれど、みんなで共有の物を持ち、それを回して使うやり方は、なかなかどうして格好がいい。
そんな事を考えていたら、傘のないわたしの頭上に、前よりも大きな雨粒が、突然バラバラと落ちて来た。
=2016年6月21日掲載=