中通り出身のわたしにとって、福島のお隣りの県とはいえ、茨木県は比較的なじみが薄い。反対に、通り道である栃木県は、何となく土地勘がある。おそらく浜通りの人は、逆の感覚をお持ちなのではないだろうか。
さて、先月24日の朝、目覚めると外は雪。わたしは慌てて飛び起きた。その日は、インタビューの仕事が入っていたからである。場所は、茨城県のどこか(どこ?)。うかつにも地図を確認していなかったわたしは、茨城といえば、海に近いのかな?とあいまいに想像しながら、「つくばエクスプレス」の始発駅、秋葉原へ電車を乗り継いだ。雪にはとことん弱い首都圏の交通網。早めに移動する以外、対策はない。あせって、改札前の濡れた床に、何度も足を取られそうになりながら…。
幸い、人生2度目の「つくばエクスプレス」は定刻やや遅れで無事出発。海に近づくのだから(?)だんだん雪は弱まるだろうといういい加減な予想に反して、車窓の雪粒はみるみる拡大していく。
その後、人生初の「関東鉄道常総線」に乗り、水海道という駅で可愛い1両編成のミニ電車に乗り換える。と、そこへ「この先の線路に、倒木があります」という、無情のアナウンス。不安のボルテージを上げながらも。目的の石下駅に何とか到着。想像した海など影も形も見えないのであった。
たどりついたのは、浮世絵の工房。70代の彫り師と摺(す)り師のお2人が机を並べて正座し、作業をされていた。聞くと、56年前から浮世絵づくりをしているのだという。彫刻刀やばれん、フラスコなどの道具は、江戸時代と全く同じだそうだ。ぽつり、ぽつり、と語る言葉に、思わず引き込まれてしまった。
数時間後、取材を終えて工房の外に出ると、周りの水田風景が真っ白になっている。「ここはどこ?」一瞬、1枚の浮世絵の中に迷い込んでしまったような、不思議な感覚に包まれた。
=2016年12月6日掲載=