先日の四連休は、旅に出ていた。行き先は秋のパリ。
実は「旅介(たびすけ)」という、新宿にある小さな旅行会社が主催するオンラインツアーに、自宅のPCから参加したのである。
リアルな旅が制限されている今、多数のオンラインツアーが企画されている。でも今までは、さほど乗り気になれなかった。テレビの旅番組や動画サイトとの違いは、生(ライブ)かどうかってことだけよね? だったら別にいいかと、思っていた。
だが、今回のツアーには、そんな思い込みを超える引力があった。パリ在住20年の作家、辻仁成さんがツアーのガイドをしてくれるというのである。
そう。『ヘミングウェイと歩くパリ』という本を、長年愛読してきた元文学少女は、『辻仁成と歩くパリ』に、パクッと食いついたわけである。
こうして、土曜はエッフェル塔とセーヌ川、日曜はベルサイユ宮殿のオンラインツアーに参加した。
初日は、エッフェル塔を正面に見すえる、朝8時半のトロカデロ広場に集合。
マスク姿の辻さんのガイドはさすが作家で、実体験やエピソードが満載。セーヌ川の橋の下では、ここで発声練習をすると、銭湯のように声が響いてテンションがあがるという話。
シャン・ド・マルス公園では、ここでロマの子どもに財布をすられかけた時、じっと目を見て「何がほしいの?」と尋ねたら「コーラ」と、小さな声でつぶやいた話などを、一篇の小説のように語ってくれた。
あたりまえだが、残念だったのは、風や匂いまでは伝わってこないこと。でもきっと、遠からず、じぶんのアバター(分身)を旅に出すと、風も匂いも感じることができる、そんなデジタル技術が花開くだろう。
はじめてのオンラインツアーだったが、参加者から自由に発言できるチャット機能なども使われていて、おなじ「今」を、ともに旅するときめきがあった。
=2020年9月25日掲載=