お昼時、通り掛かった築地本願寺の正面の柱に、「ランチタイム・コンサート」という、見慣れぬプレートが掲げられていた。
好奇心がうずいて、いつの間にか、建物の外階段を登る人の流れに乗っていた。
考えてみれば、この寺院に入るのは初めて。高級そうなお線香の香りに、さすがだわ〜と、鼻をヒクヒクさせながら入り口をまたぐ。
本堂の天井は高く、床には椅子が並んでいて、まるで教会のようである。
お寺のコンサートなら、笛か太鼓だろうと思っていたが、手渡されたパンフレットには「オルガン」とある。予想の斜め上を行く楽器の登場だ。
短い仏教講話の後、オルガニストが入場。振り向くと本堂の後方に、パイプオルガンが鎮座している。
鼻でお線香を嗅ぎ、耳でパイプオルガンを聞くのは、初めて体験する、不思議な「五感」の組み合わせだ。
だが、オルガニストの中野ひかりさんが演奏するバッハの旋律に耳を傾けているうちに、いつの間にか嗅覚と聴覚とのミスマッチ感は消えていた。「五感」というやつ、思いの他、キャパシティが広いらしい。
30分ほど演奏に聞き惚れて、帰り掛けた時、隣りにいた白人カップルに腕をつつかれた。
「ドコデ、ウニノアイスガ、タベラレマスカ?」
は、ウニのアイス? そんな食べ物ありませんよと答え掛けてふと気づく。予想の斜め上を行く食べ物が出現している可能性も、あながちゼロではない。
思い直して、築地のインフォメーションセンターの場所を教えると、手をつないだ彼らは、とびきりの笑顔で立ち去っていった。
ははは。おかしな旅行者だこと〜と、鼻で笑うわたし。
一日中、ウニとアイスが合体した不思議な食べ物のイメージが頭から離れなくなることを、まだこの時は、知らなかったのである。
=2017年10月13日掲載=