先々月、京都の仕事の折、初めてカプセルホテルに泊まる経験をした。意外なことに、わたしはそれが気に入ったらしい。
確かに狭いが、不思議に落ち着く。そもそも寝付きの良い旅人に、デスクや家具など無用の長物だったのだ。
というわけで、先週の出張時に予約したのは、四条通りに面した「センチュリオン・キャビン&スパ」。
当日、建物に入ってみると、チェックインを待っていたのは全員外国人。フロントまでが東洋系の外国人。
あらら、こちらは観光客向けのカプセルなのね?そういうことなら張り切って、日本の印象をあげなくちゃ!と、なぜか責任感に燃えるわたし。テンションを上げて大浴場に繰り出した。
まずは脱衣所で顔を合わせた金髪の女性に「ハーイ!」。お風呂に手を浸けて顔をしかめているティーンエイジャーに「チャレンジ!」。湯船に浸かっている人には「ハウイズ・ジャパニーズ・オンセン?」と、次々に笑顔を振りまく。
カプセルに戻るエレベーターを待っている間も当然、口は「ハ」の形。外国のドラマのように「ハーイ!」と声掛けをする準備である。
さて、ドアが開くと女性が乗っていた。髪型といい洋服といい、うーん、どう見ても日本人?…だなぁ。そう気づいた瞬間、なぜかわたしの口は「ハ」の形のまま、固まってしまった。
こちらを一瞥もせず先に降りた彼女を無言で見送りながら、わたしは気まずい気分で、固まっていた口をそっと元に戻したのだった。
日本人って、昔は知らない人とでも挨拶をしたよね…?でも、最近は、知らない人に話し掛けたりすると変な顔をされるよね…?
ああ、自分たちがもどかしい…。日本人への複雑な思いを胸に、わたしはまた口を「ハ」にして、次にすれ違う外国人を待ち伏せした。
=2017年4月28日掲載=