よしながふみの漫画「大奥」が、16年の歳月をかけてとうとう完結した。
面白いと話題になり、テレビ化や映画化もされたからご存知の方も多いかな。
この話の凄みは「もし、江戸時代の日本に、奇病がまん延したら?」という仮説を切り口にして、200年以上を描き切ったことだ。
発端は3代将軍家光の時代。謎の疫病、赤面疱瘡(あかづらほうそう)が、爆発的に広まる。不思議なことに、かかるのは男子だけ。とくに若い男子が感染すると10人中8人が死に至る。
感染は江戸城をも襲い、将軍家光も31歳で命を落とす。彼には後継者がいなかったため、一計を案じた家光の乳母春日局は、家光の隠し子を影武者にすえる。だがその子は女の子。後にこの人が初めての女将軍、家光になる。
その後も、日本中の男子が激減。11代家斉、12代家慶、15代慶喜を除く代々の将軍職には、すべて女性が就任するようになる。
庶民もまた、数少ない男子を家の奥に大切にかくまい、女性が労働の担い手になる。漁師も、火消しも、物売りも、あらゆる家業が女子から女子へと受け継がれ、女性が世の中を回しはじめる。
幕府が鎖国令を出したのは、この風変わりな状況を異国に知られぬためである。へぇ、そうだったの? と思わせるほど物語は破綻なく進んでいく。
さて、今、各国の男女格差を分析した「ジェンダー・ギャップ指数2020」で、日本は153カ国中121位という低位に甘んじている。国の経済力からいえば、低すぎる数字だ。
フィクションと事実をまぜこぜにするのもどうかとは思うが、この物語の日本がランキングに参加したなら、きっと世界のトップに踊り出るに違いない。
女性が国を牛耳ったこっちの歴史のほうが、逞しくてイキイキしてる…と感じる読者がいてもおかしくはないよね。実はわたしも、その1人。
=2021年3月26日掲載=