盗難にあった自転車を、自力で取り戻した青年の話が、テレビで紹介されていた。
盗品は、ロードタイプの高級車。
「犯人はネット・オークションに出品するに違いない!」とにらんだ彼は、登録した品物が出品されるとメールが届くように「アラート」を設定。
数日後、知らせが来て画像を見るとサドルに傷がある。愛車だと確信した青年は警察に通報。見事犯人を捕まえた。
へえっ〜?と、見ていたわたしの脳裏に、似たような出来事の思い出が。
わたしの場合は、大切にしていた本だった。タイトルは「怪盗ルパンの時代」。
須賀川三小の図書館で出会って以来、長年、ルパンを理想の男性だと思いつづけてきた。そのルパンを生んだフランスの「ベル・エポック」時代の文化やファッションを解説した、ちょっと珍しい大人の一冊。
なのに、五年ほど前、わたしはその愛読書を熊本空港のラウンジに忘れてしまった。数回電話をしても見つからない。まるで煙のように、消えてしまったのである。
どうしても、あの本を持っていたい! 考えあぐねて、オークション・アラートを設定。なくした本が見つかる可能性はないだろうが、ひょっとしたら、ご同輩が片付けか何かをして、同じ本を出品する日もあるだろう……。
待ち焦がれる事1年、ついにアラートが鳴った!
落札した本の包みを開いて、パラパラとページをめくった瞬間、わたしは思わず吹き出してしまった。
扉のページ。シルクハットのイラストの下に、ルパンの顔を落書きして、どじょうみたいな口ひげを蓄えさせた鉛筆の跡が、うっすらと残っていたのである。
ゲゲ、これ、わたしが描いた落書きじゃないか!
神出鬼没の怪盗ルパンにかかれば、消えた本さえ、奇跡のブーメランのように、戻ってくるのであった。
=2016年11月1日掲載=