6月に、渋谷で東急東横線と直結した副都心線は、東京でいちばん若い地下鉄である。
最新ということは、地下鉄網の最深部を通っているの?と誤解されがちだが、実はいちばん浅い丸ノ内線のすぐ下、都営新宿線のすぐ上の、わずかな隙間をぬって作られた。
後者との最短距離はわずか11センチ。駅のホームをアーチ状にするなど、針に糸を通すような技術で完成したという。
では、いちばん深い路線は?それは、10数年前に出来た都営大江戸線である。
新宿の都庁を起点に、牛込神楽坂や門前仲町など、時代劇でもお馴染みの街と、六本木や青山などをくるりと貫いて、光が丘まで伸びるルート。
この路線は便利である。だが、深い。乗り換えに時間が掛かっちゃうから使わない、という人もいるほどだ。
先日、この大江戸線の国立競技場駅近くで打ち合わせがあった。階段をいくつか上った後、いちばん長いエスカレーターで上昇していたその時、下腹部でブチン!と何か弾ける音がした。
見ると、スカートの前ボタンが飛んで、コロコロ転がり落ちるところ。しゃがんで手を伸ばせば、すぐ届きそう。だが、勢いの付いたボタンは、軽く跳ね、もういっこ下の段に落下。一段下がれば、届きそう。だがまたボタンは跳ねる。一段下がると、また跳ねる。
そんな感じで、一段一段と下がり続け、しまいに完全に後ろを向いて、猛スピードで上りのエスカレーターを逆走していた。
人が来ないのをいいことに、結局、下まで降り切って、安全バーにせき止められたボタンを捕獲。
息を切らしながら見上げたエスカレーターは、100段程の段数以上にそびえ立っていた。
わたしが、自分の食べすぎを棚に上げ、深すぎる大江戸線に悪態をついたのは、いうまでもない。
=2013年11月5日掲載=