先月末の日曜日、一昨年、昨年に続いて、空のF1「レッドブル・エアレース千葉2018」をのぞき見に、東京湾の埋め立て地、茜浜まで出掛けて行った。
もちろん、お目当ては、室屋義秀選手の母国3連勝に決まっている。
だが、そこは「ただ見」の悲しさ。幕張のレース会場まで4キロほど離れているから、レース中の飛行機や、エアゲートのパイロンは、かげろうの向こう。真剣勝負の詳細は、海霧に霞んでよく見えない。
とはいえ、浦安の駐機場とレース場の間を往復する飛行機は頭の真上を通るし、ぶーんと空気を震わせる軽やかなエンジン音もしっかり聞こえる。
これって、ちょうど夏の花火大会を、ビール片手にビルの谷間から眺めるようなものだろうか。
やはり、同じことを考える人はいるもので、東京湾を一望できる緑地は、キャンプ道具を持参した家族連れなどで、今年も大賑わい。
1回戦の「ラウンド・オブ14」が始まると、誰もが幕張の方向を見つめたが、室屋選手がオーバーGによるペナルティで敗退したことまでは、知る由もない。
そんな中、ツイッターなどの情報から、最悪の展開を知ったわたしだったが、室屋選手の決勝レースを待ちかねる一人ひとりの間を回って状況を説明するわけにもいかず、気持ちは複雑……。
当然、あの美しいスカイブルーの機体は2度と現れることなく、決勝は終了。茜浜にも、無情な黄昏(たそがれ)がゆっくりと迫ってきた。
ところが、さっきまで「?」な顔をしていた人たちが、なぜか晴れ晴れとした表情に包まれている。
終わってみれば、何が起きたかワケわかんないけど、飛行機も見られたし。お金もかかんなかったし。こういう一日も悪くなかったよね~とでもいいたげな雰囲気である。
室屋選手の無念を乗せた、ちょっとセンチな海風だけが、暮れなずむ緑地を真っ直ぐに吹き抜けていった。
=2018年6月8日掲載=