「高齢化」は、どうやら人間だけの話ではないようだ。建物も同じ。高度成長期に作られた都心のビルや大型マンションが、続々と建て替え期を迎えている。
先日も、取引先の会議室でふと窓の外に目をやると、前月まで隣に見えていたビルが、姿を消していた。
ガランとした空き地を見おろすと、すでに次のビルの地盤改良工事が始まって、深い深い穴の底に、長い鋼管杭が何本も打ち込まれている。それを見て、へえ、こんなに深く杭を打つのか〜と、なぜか安心。ここまでしてくれるなら、耐震性能はバッチリだと思ったのだ。
だが、そんな期待を裏切る事件が起きてしまった。
横浜市の大型マンションが傾き、その原因として、建設時の杭打ち工事で、別の工事のデータが転用されていた事実が発覚。セメントの注入量までが偽装されていたというのである。
事業主は三井不動産レジデンシャル、元請けは三井住友建設、下請けは日立ハイテクノロジーズ。まさにブランドの揃い踏み。
各社のトップが謝罪はしたが、非難の矛先は今のところ、そのまた下請け(いわゆる孫請け)の旭化成建材(と、そのまた下請け業者)に向けられている。
確かに、事件を起こした当事者は、彼らかもしれない。だが、雨の日も夏の日も現場に出て、重い機材を運び、大地に杭を打ちこんできた人にしかわからない事情があるのではないか。
問題の裏側に、川上から仕事を丸投げした人には見えない真実が、隠れているのではないだろうか。
いま、杭打ちが必要なのは、地盤だけではないのかもしれない。丸投げ、手抜き、無責任、あげくの果ての改ざん…。
世の中にまん延する、そんな思考停止の病巣にこそ、激しく何かを打ちこみたい思いがする。
=2015年11月17日掲載=