今週の猛暑日、木陰の歩道を歩いていると、カラフルな水筒を首からぶら下げた男の子たちがザワついているところに遭遇した。
見ると、大柄な子と痩せた子とメガネの子、まるで『ズッコケ三人組』ではないか。少年という自由な生き物の面白いところを凝縮した……そんな感じの、かつての児童文学の傑作だ。
さて、現代のズッコケ三人組、何をモメているのだろうと近づいてみる。すると、太いケヤキの木の幹に止まった蟬を何とかしたいが、怖くて手が出せない。そこでキミが行けよ、いやいやキミがと無言で小競り合いをしていたのだった。
ふいに、おせっかいの血が騒いだ。「蟬、捕りたいの?」と聞くと、キョトンとした6つの目がこちらを見た。「ボクたち触れないので」と、大柄な子がいうと、あとの2人もうなずいた。そこで、蟬の黒い背中に垂直に手を伸ばす。音も立てず捕まえた蟬を「はい」と差し出すと、3人とも身を引いたので、自分のサマーセーターの胸に勲章のようにくっつけてみせた。
大柄の子が「死んじゃったの?」と、心配そうな顔をした。いや、大丈夫。わたしが育った須賀川では、捕った蟬はこうやって勲章のように胸元にくっつけることになっていた。
だが、久しぶりだったせいか、蟬は突然、鋭い羽音を立てて暴れながら飛び去ってしまった。そのとたん、3人とも笑っちゃうほど大慌て。近頃の子どもは虫が苦手なのである。まるで、ゴキブリに縮みあがる大人みたいだった。
その後、「ありがとうございましたー」と、お礼を言われた。
およよ、思わぬ道草である。でも、今さらだが、そして、半世紀越しの疑問なのだが、どうして蟬って勲章のように胸にくっつけると、急に大人しくなるのだろう?
=2021年8月13日掲載=