仕事で時々コンビを組むデザイナーのMちゃんは、「いきもの係に向かない女子」の1人である。
引っ越し祝いに、皆で観葉植物をプレゼントすると、あっという間に枯らしてしまった。金色のメダカを飼いはじめた時も、翌月には水槽セットごと消えていた。
親切で世話焼き。なのに、なぜ? 多分、必要以上に構いすぎてしまうのだ。
そんなMちゃんと、半年ぶりにカフェで再会。どうしてた? と聞くと、答えは「タニク」。自粛の間、本気で多肉植物にハマっていたという。
「多肉ってネイルに似てるの。土の中からきれいな色の爪がムクムク生えてくると、もう可愛いくて!」
これが新しい子、と差し出すスマホの写真を見ると、プリプリした葉の先が透けて、キラキラ光っている。
「アフリカ生まれの、ブルビネ・メセンブリアンテモイデスっていう子で。透明な葉に、空なんかが映りこむと、もう神秘的で!」
え、セメント? マンモス? 迫力あるね。
「多肉はどの子も、名前まですてきなの。めっちゃ可愛い!」
驚いた。いきものを育てることだけが泣きどころだったMちゃんが、しばらく見ぬ間に、最強のバージョンアップをとげていた。
ところで、一緒にサボテン食べたことなかった?
ふいに思い出したのは、バブル華やかな頃、都心のメキシコ料理店で、お皿が隠れるほど巨大なサボテンステーキに喰らいついたことである。
冬瓜のような歯触りと、たっぷりめのスパイス。あの頃は多肉なんて呼んでなかったし、たしかMちゃんも、可愛い〜じゃなくて、おいしい〜って叫んでいたよね。と、ここまで思い出して、自然に笑いがこみあげてきた。
同じ多肉植物でも、ガッツリおいしいサボテンステーキから、めっちゃ可愛いマンモスなんとかへ…。
バブル世代。肉食女子の旅は、どこまでつづく?
=2020年10月23日掲載=