あの頃が懐かしい…。
万葉集にさえ、そんな感情を詠んだ歌がある。やりきれない望郷、そして過去への愛惜。どんなに時代が移っても、人の世とはそんな物なのかもしれない。
だが、世の中は、悪い方にだけ進んでいるわけではない。今さらながらそれに気づいたのは、先週のことである。
ピカピカの1年生親子と次々にすれ違う一日があった。よく見ると、子供たちの背中のランドセルは、クレヨンの箱をひっくり返したみたい。色は全員見事にバラバラ。茶色、ピンク、オレンジ、紫…。6年生になってこそ似合いそうな、渋い抹茶色を、背負った子までいる。
思えば20代の頃、初めてのヨーロッパ・ロケから帰国した翌日、カラスのような黒髪ばかりが群れている銀座通りの光景を見て、がく然とした記憶がある。
そもそも髪色が同じだから、みんなが同じ考えになってしまうのだ。一人一人別の色にならなければ、日本はよくならない!
思い込みの激しいわたしは、早速長いストレートヘアを、真っ赤に染めた。
おまけに、それから数年間、奇抜な色の服ばかり着ていたっけ…。
その視点から見れば、目の前をポコポコ通り過ぎて行くとりどりの色彩は、日本人が、二千年の間続けてきた画一思考を超えつつある証し。新たな多様性を獲得する兆しのような気がして、心が弾む。
もちろん、コンサバティブな赤ランドセルを選んだ女子や、黒ランドセルの男の子にも、今は今なりの意味があるのに違いない。
さあ、入学式が終わるとわたしたちの故郷に、花の季節がやってくる。
〝みちのくの 美しき島は 咲く花の 匂うがごとく 今盛りなり〟
=2014年4月15日掲載=