今週の火曜日、メトロの豊洲駅から地上に出ると、強い雨が降っていた。街路樹の白い花にも、容赦なく大粒の雨が落ちている。
「春の雨、そんなに激しく降ったら、そこのハクモクレンかコブシが、散ってしまうではないの!」
抗議の言葉を胸に浮かべながら、バッグから折り畳み傘を引っ張り出す。
何とも中途半端な抗議であるが、ハクモクレンとコブシは、よく似ているので、とっさに花の名前の特定はできかねた。
実際は、花の向きや、花びらの数が違うのだが、どちらも、ほとんど同じ木に咲く白い花なので、パッと見には区別がつきにくい。
そこで、目の前に咲いている花の花びらを数えてみると、7枚である。記憶だと、ハクモクレンは9枚、コブシは6枚だったはず。
足元を見ると、アスファルトの上に花びらが落ちている。まだ誰にも踏まれていない。今、散ったばかりのようだ。落ちた花びら2枚を数に加えると、9枚になる。ついにこの花の名前は、ハクモクレンに決定である。(ははは、何ともややこしい……)
さて、毎年、そろそろお花見が始まるよ〜と、桜の先遣隊を務めているようなハクモクレンが、咲いちゃったわけである。ということは、否応もなく、桜もすぐに咲いてしまうってことだよね。
今年は、みんなが外出を控えなければならなくなった、困った春だ。
そんな春でも、桜はいつもと変わらない花を咲かせるのだろう。
そういえば、百人一首の中に、こんな歌があった。
「もろともに あはれと思へ山桜 花よりほかに 知る人もなし」
人混みを避けて、咲く花を一人静かに眺める、そんなお花見が始まるよ〜と、先遣隊のハクモクレンが告げているような気がした。
=2020年3月13日掲載=