人を楽しくだますのは、おもしろい。もちろん、やり過ぎ、犯罪は論外だが、罪のない「だまし」は、人生の潤滑油だとさえ思う。
四月生まれで、小中学校の出席番号が一番だった。たとえば予防注射。痛くなかった時には、先頭で、必ず大げさな泣きマネをした。
後につづく友だちが「げっ!相当痛そうだぜ」などと、ビクつくのが痛快だったのだ。いざ打たれてみれば、泣きマネが笑えるジョークだったことは、すぐにわかる。
さて今年、わたしは自分の体をだますことに腐心している。
春先に襲ってくる花粉アレルギーを「減感作(げんかんさ)療法」という、いわば、だましのテクニックで迎え撃とうというのである。
方法は、こうだ。体がアレルギー反応を起こすのは、いきなり大量の花粉が体内に入るからである。先手を打って、毎日少しずつ花粉を注入。体が「この程度なら反応するほどじゃないな」と感じるよう仕向けるのである。
これを繰り返せば、本物の花粉の飛散が来ても「こんなの無視!」と、体は三年寝太郎を決めこむという寸法だ。
クリニックは、表参道にある。寒いうちに、段階的に量を増やしながら三十回ほど注射しなければならない。忙しさに拍車がかかるが、なんとか作戦の半分を消化した。
期待と不安が交錯する、この春。
体は、まんまと、だまされてくれるだろうか。
=2013年1月17日掲載=