わたしのお腹には、大きな「J」の文字がある。
みぞおちを起点に、まっすぐ下へ。そのまま、おヘソの上で右に大きく曲がること、10cmくらい。
全長35cmほどもある長い傷は、その形から「J切開」と呼ばれる手術の跡で、ちょうど3年前の10月に、都内の大学病院で付けられたもの。
きっかけは、毎年受けている人間ドック。画像に写った影から疑われた病名は、肝臓がん。針を刺して組織を採取する生検の結果、悪性の可能性が半分。良性の可能性が半分。経過観察という選択肢もあると説明されたが、「そんなの嫌! できるだけ早く切ってください」とダダをこねて、開腹手術に持ち込んだ。
幸い、疑惑の部分を切除して組織検査をしたところ、ただちに良性腫瘍と判明して、一安心。しかし、病気でもないのに派手な傷だけが残るのではワリに合わない。何か活用法がないか、あれこれ考えているうちに浮かんだ妄想が、ハロウィンのパレードだった。
皆が液体絆創膏やペンシルライナーを駆使して「傷メーク」を描いているなか、リアルなお腹の傷跡を丸出しにして参加したら、さぞかしウケるんじゃなかろうか?
だが、さすがに神様に叱られそうな気がして、その計画は中止に。
そこで、傷の活用はあきらめて、養生に励むことにした。毎晩お風呂の後、クリームを塗り込み、傷に対して垂直に隙間なく、短いテープを貼り付けたのである。
その結果、3年後の今では、シャープペンで一筆書きをしたような、極細の灰色のラインが残るのみ。
赤みはなく、この筋がもし人目についたとしても、ちょっと気になる腹筋の割れ目か、シックスパックの一部にしか見えないだろう。
もう、ハロウィンで役に立つこともない……。
鏡に写る、「J」の文字がうっすらと浮かぶお腹を指先でなぞりながら、巡る秋の訪れを感じている。
=2018年10月26日掲載=