見るとはなしにテレビを見ていたら、英語教材のCMが流れている。最後に出て来た女性が「聞き流せ、ニッポン!」とすまして言うので、笑ってしまった。
この教材の善し悪しは別にして、ヒットの理由は、「聞き流す」というキーワードにあると思う。「流す」という半ばヤケッパッチでテキトーな動詞を、「聞く」というまっとうな動詞と組み合わせて成功している。
では、この「聞き流す」という言葉、文法的には何なの? 二重動詞?ちがう?それでは複合動詞?…と、気になって検索をしていると、国立国語研究所による「複合動詞レキシコン」というサイトに行き当たった。
そこの説明によると、世界的に見ると、「動詞+動詞」からなる「複合動詞」が存在するのは、東アジアだけ。中でも日本語の「複合動詞」の数の多さは、群を抜いているとのこと。専門家にとっては、興味深い研究対象である反面、日本語を学ぼうとする外国人にとっては、手ごわい学習分野なのだという。
そう、手ごわいよね!と、膝を打つわたし。というのも、「複合動詞」には、常々泣かされているからである。例えば、化粧品を肌に塗り付ける? 塗り込む? 塗り入れる? どうする?等と、CMのナレーションを考えながら、迷うことも多いのである。
だが、この「複合動詞」こそが、日本語の表現を豊かにしているという点では、国語研と同意見である。
以前、友人が鉄道を「乗りつぶす」というタイトルの本を書いた。「乗る」というポジな動詞に、「つぶす」というネガな動詞をくっつけた彼の言葉のセンスに、恐れ入った。そしてその本は、結構よく売れた。
知ってるつもりの日本語の表現だが、まだまだ、使いこなす余地が、ありそうである。
=2016年9月20日掲載=