深夜2時、自宅のファクスの受信機が、コトコト動く音がする。見に行くと○○事務所から、△△さん宛て。どちらも見知らぬ名前である。DVDを11本ほど注文する書類のようだ。
最初は、放っておこうと考えた。この間、電車でおじさんが落としたニット帽を、わざわざ追い掛けて手渡した時だって、ああ!と乱暴に引ったくられて、嫌な思いをしたじゃないか。
だが、おせっかいなわたしは、速攻、その紙にあった○○事務所の電話番号をタッチしていた。いたずら電話だと思われないように、低音でサバサバ話す。「そちらから今、△△さん宛の間違いファクスが届いたんですけど?このままじゃ困った事になるだろうと思ってお知らせしました」
「わぁ、すみませーん!」という明るい返事は、おそらく20代の男子。
だが数分後、またファックスがコトコト。見に行くと差出人も宛先も同じ。今度は雑誌の注文である。
再び電話。今度はちょっとサバけた口調で「あのさ、こんな夜中に何度も間違いファクス送ってるけど。うちは×××番。そちらは何番に送ったの? 」「わぁー、1個違ってました、すみませーん」「了解」「スミマセーン!」
ほっとして電話を切る。だが、何かが胸にわだかまっている。と、突然、ちがぁうっっっっ!と頭をかきむしりたくなった。
会話とは、実は相手の発言の中に、自分が求める言葉を探す旅である。
彼の何とも軽いスミマセーン!は、この程度の発注ミスでは、誰も困ったりしないことの証明であろう。
なのに、内心、「ご親切に、ありがとう!」という反応を期待しながら電話した自分…。わたしってウザい?と、誰かに確認したくて、たまらなくなった。
=2015年2月17日掲載=