先月、静岡県・伊東の美術館で、ちょっとしたイベントがあった。30人ほどの仲間が、古びた温泉ホテルに宿泊。
昭和の頃は朝な夕な、ホテル名を歌い込んだコマーシャルが、日本中のテレビで流れていたという。
宿泊客は1枚ずつ、館内で使える千円分のお買い物券がもらえる。ラッキー!とお土産ショップをのぞいたわたしたちは目移りの嵐。さほど珍しい品物があるわけではない。地元産の海産物やミカン味のお菓子などが主。だが、足を出さずに買い物しようとすると攻略は超難問。うーん……。
そんなお土産の棚でわたしの目を引いたのが、ぐり茶だった。おそらく栗のお茶だろう。伊豆の山奥で秋に実ったホクホクの栗を煎じた、体がじーんと温まるお茶。栗の渋皮には抗酸化力があるらしいから、若返りにも役立つんじゃなかろうか。わたしはあの童話のキャラ「ぐりとぐら」がふぅふぅ息を吹きながらぐり茶を飲む姿を思い浮かべた。
「どっちにしよう?」と、選んだぐり茶を左右の手のひらに乗せて迷っていると、「決まった?」と、物知りの姉御肌、Eさんの声が「ぐり茶のグリはグリーンのグリ。緑茶のことよ」と教えてくれた。「え、栗茶じゃなくて、グリーン茶?ただの緑茶なの?」。ガックリきたわたしは、あっさりぐり茶を手放し、あおさに宗旨替え。
お会計をしてもらいながら「ぐり茶って、グリーンティーの略なんですねぇ」と店員さんに話しかけると、店員さんは「は?」と吹き出して「ぐりっとねじれたお茶だからぐり茶なんです」。
帰りの踊り子号に乗車後、スマホで調べてみる。すると、「ぐり茶は遠心力を利用して茶葉をやさしく乾燥させた緑茶。まっすぐに揉み整える工程がないので茶葉を傷めない。くるんと丸い形。渋みがなく、まろやかな味がする」とのこと。
やっぱり選べばよかったか。
逃した茶葉は、きっと、おいしいのである。
=2023年6月9日掲載=