自宅の前の駐車スペースのすぐ上にある電線に、よく鳥がとまっている。オレンジ色の脚と口ばし、短い尻尾。おそらくムクドリ。気がつくと大きな糞(ふん)が度々、車のボンネットにまき散らされている。
ある朝、出勤前に大慌てで糞まみれの車を洗っていると、お隣さんが「電話をすると工事に来てくれるわよ」という。聞くと、電線の持ち主は電力会社と、電話会社と、ケーブルテレビ。お隣さんは3社に電話を掛けて工事を依頼。その後、糞害は一切なくなったという。
なるほど。連絡してみるか。そこでわたしは、まず東京電力に電話を掛けた。
すると相手は予想外のスピーディーな対応。早速、高所作業車が2台もやって来て、まず電線に黒い洗濯バサミのような物を取り付け、次いで電線に沿って細いワイヤーを張って、1時間程で工事は完了した。
もう鳥は電線にとまりませんと、作業員の方からテキパキした説明があり、手際の良さに、わたしもついつい調子に乗って「原発のモタモタとは、エラい違いね!」と、言う必要のないひと言を口にしてしまう。
東電に対する日頃のわだかまりやモヤモヤが、そんな言葉になって噴出したのだが、相手かまわぬ大人げなさに我ながらバツの悪い思いをした。
電線はかつて、青い空を見上げる時も、帰宅を急かす夕日を見つめる時も、いつも上空にたゆたっていた。街角の家から家へ灯りをつなぐ、心優しいインフラだった。
そんな電線を懐かしむ感情は、いつしか、どこかへ消えてしまった。
今年は、電力自由化が始まる年である。電気を買う相手が自分で選べるようになる。電力会社に暴走を許してしまった、旧来の社会の仕組みは、今からでも少しずつ変わっていくはず…。
何事も、やらないよりはずっといい。遅すぎではないと信じたい。
=2016年1月5日掲載=