先月の仕事帰り、ちょうど「お江戸日本橋」の上を歩いていた。と、恥ずかしげに胸元に白い画用紙を広げている初老の2人組がいる。
横目で見ると、この2人、夫婦らしく、色違いのチェックの登山服にトレッキングシューズ。交互に紙を持ち替えて撮影中。近づいて見ると、「東海道、完歩達成!」と書いてある。
わぁ、すごい!2人一緒の写真は要らないの?と、おせっかいの虫がうずいて、声を掛けてしまう。「どちらから?」と尋ねると、微妙な笑顔で「三条大橋ですわ」という答えが帰ってきた。笑顔の奥に(あんた、東海道のスタート地点も知らんのかいな?)という言葉を飲みこんでくれた感じ。ああ、そうか。京都の三条大橋と日本橋は、わが日本人の伝統的な、旅の起点と終点なのだった。
それから1ヵ月ほど経った先週の金曜日。仕事の合間にスマホでフェイスブックを見ていると、学生時代の先輩、Kさんの書き込みを見つけた。内容は、「本日帰国。午後6時に、日本橋のたもとに佇みます」というもの。
Kさんは、今年の5月22日にロシア・ウラジオストクを出発し、ヤマハの250㏄バイクで、単独ユーラシア大陸横断に挑戦。10月14日に大陸最西端のポルトガル・ロカ岬に到達。その後アフリカに渡り、半年ぶりに日本にゴールしたのだった。
これは世紀の一大事!とばかりに、わたしも、お迎えに参上。Kさんはネオン瞬き始めた夕暮れ時の「お江戸日本橋」で、友人たちに囲まれていた。
なるほど。日本規模でも世界規模でも、日本橋は、由緒ある旅のマイルストーンなのだった。なのに、50年以上もの間、首都高速道路という無慈悲な覆いを掛けられてきたのだ。
しかし、重い腰を上げた国と東京都によって、ついに首都高の地下化が検討されるという。
旅人の聖地は、半世紀ぶりに、頭上の空を取り戻せるのだろうか。
=2017年11月24日掲載掲載=