国立競技場の解体業者が決まらない。3度目の入札も不調に終わり、工事は来年にずれ込む模様である。
入札の不調は日本スポーツ振興センター(JSC)の不手際もあるが、ここを護る神様のご機嫌を損ねたこともひとつの理由だろう。
スポーツの聖地をあっさりとスクラップ処分。神宮外苑、いちょう並木、絵画館、神宮第二球場、東京体育館などが憩う地区に、ギンギラギンの宇宙船型スタジアムを軟着陸させようとする計画が、やはり違和感たっぷりなのだ。
新築でなく改修で、五輪の基準をクリアできると公言する建築家もいる。
「前回大会のメインスタジアムを改修して迎える2度目の東京オリンピック。日本人の、もったいない精神の結実です!」そんな実況をついつい夢見てしまう。
だが、震災以来、本当にわたしが夢見ていたのは、福島オリンピック。ずーっと先、原発事故を完全に乗り越えた2060年くらいの大会で、それが実現できたら感涙だろう、と。
でも東京が、まさかのフライング。個人的に言えばザハ・ハディドの未来的で挑発的なデザインは嫌いではない。建設当初は、エッフェル塔だって、パリの人たちからひんしゅくを買ったのだ。今の違和感がかえって、皆に愛されるようにならないとも限らない。
しかし、だからといって、神宮外苑という聖なる場所へのリスペクトが皆無な、このデザインを従順に受け入れる気にもなれない。
先週、国立競技場を周回する散歩道は、いちょうの上に桜やけやきの葉をハラリと乗せた、綾織りのぶ厚いじゅうたんにおおわれていた。
秋から冬へ。神様も、微妙な立場で人の営みを見守っているのだろうか。
どっちつかずの表情をして。
=2014年12月16日掲載=