ロンドンオリンピックが近づいてきた。
わたしが実体験したオリンピックは、ソウルと長野の二カ所だけ。一度は、アジア以外の大会をのぞいてみたい。でも、今回も仕事に足を引っ張られている。
スポーツ観戦の何が楽しいの?と、よく聞かれる。
例えば五年前、世界陸上・大阪大会の帰り道でこんなことがあった。午後十時すぎ、場所は地下鉄長居駅のホームである。
暑さと興奮で疲れきったわたしと友人が電車を待っていると「ヘイヘーイ!」と叫ぶ声がする。「なに?」と、見ると二メートル近くあろうかという大男が、ホームの反対側から満面の笑みで手を振っている。赤い顔に銀色のひげ、太いストラップで肩に垂らした望遠つきのニコン…。
なんと懐かしい顔!彼とは袖振りあった仲である。十年以上前、東京の世界陸上の百メートル決勝を隣り合わせで観戦した。世界をまたにかける、熱狂的な陸上ファンであった。
線路をはさんで「タイソン・ゲイ(男子百メートルの優勝者)、すごかった!」「いやぁ、後半速かった!」と、あの日のように片言の英語で感想を叫びあう。
数分後、「じゃ、またねー」と、反対向きの電車に乗りこんだ。
そう。人類が皆いい人だというひとときの幻想は、わたしたちに、前を向いて歩くチカラをくれる。
開幕まであと三十六日。あぁ、ロンドンに行きたいっ!
=2012年6月21日掲載=