今週の火曜日、緊急事態宣言が発せられた。
自宅でPCに向かう時間が長くなった。ニュースを追いかけるのにも疲れて、「積ん読」していた本に手が伸びた。
新型コロナ禍が広まりはじめた頃、皆が殺到したカミュの『ペスト』を、わたしもアマゾンで買っていた。20代の初めに冒頭の10ページばかり読んで放り出した、あの有名な小説である。
第二次世界大戦終戦の翌々年に発表されたこの物語の舞台は、ペストのまん延で都市封鎖されるアルジェリアの港町、オラン市。1匹のネズミの死がいが見つかったことを皮切りに、坂道を転がるように悪化していく状況が、デジャブのように身にしみる。
感染はみるみる広がり、1日の死者の数は、16人、24人、28人、そして4日目には32人と増えていく。宗主国のフランスから空輸で血清は届くものの、感染拡大の勢いは止まらない。人口20万の市なのに、6週目の死者数は、345人という絶望的な状況を迎える。
そんな中、主人公である30代の医師リウーは、地に足をつけた診療を続ける。
また、友人のタルーたちは、ボランティアグループ「保健隊」を結成。地域の家屋の消毒や、患者や遺体を乗せた車の運転を手伝うなど、命を賭して感染を食い止めようとする。
冬の寒さとともに、ふいにペストの勢いは衰える。10ヵ月間にわたる戦いの最後は、このような文章で結ばれる。
「ペスト菌は、再びネズミどもを呼びさまし、どこかの幸福な都市に彼らを差し向ける日が来るだろう」と。
発生源はねずみではなかったが、事実、多くの熱病が人類を襲い、その中のひとつが、2019年末の武漢だったというわけである。
緊急事態宣言の行く先は、不透明。
「絶望に慣れることは絶望そのものよりも悪い」というリウーの独白が、胸に突き刺さる。
=2020年4月10日掲載=