銀行の大型テレビに人だかりができている。
新幹線が小田原で炎上というニュースに驚いたわたしは、とっさに、雷が落ちたか?と考えた。同じ梅雨の時期、乗っていた飛行機に雷が落ちた事を思い出したのだ。
ちょうど5年前、羽田発熊本便。ビジネス客ばかりの静かな機内に、気流の乱れを伝えるアナウンスが流れて、乗客は全員、シートベルトを着用。わたしは客室のほぼ真ん中あたりの席にいた。
と突然、機体の右外側でボン!という短い破裂音がした。
爆発?いや爆発にしては音が小さい。カラスでもぶつかった?でも、こんな高所にカラスなんかいる?と、自問自答の洪水に溺れながら、右窓を凝視していると、ドラゴンボールの世界かと見まごう火の玉が、スルッと窓ガラスを通り抜けて、いきなり機内に飛び込んできた。
火の玉は、わたしの3列前の座席を、横一飛びに移動。座っている人の頭をかすめ、上手なサッカーチームのヘディング練習のようなバウンドを繰り返して、プルッと左窓から外へ出ていった。
髪の毛の中を火の玉が通過したアフロヘアの男性(彼はその前からアフロヘアだったのだ)が首を振って、キョロキョロあたりを見回していたが、CAからも操縦室からも、落雷を伝えるアナウンスは一切なかった。
普通に着陸した後、ドア横の乗務員に、ひょっとして雷が落ちました?と尋ねると、さようでございますとニコッとされた。
その時、猛烈に誰かと不思議を共有したくなったわたしは、アフロヘアの男性を追い掛け、大丈夫ですか?と声を掛けた。彼は、へ?とけげんな顔をした。さっき雷が通ったから、と言うと、アフロは、は?と、不審者を見るような目で、こちらを見つめた。
後になって新幹線は不幸な火災だったとわかった。
地震、雷、火事、オヤジ。オヤジ以外の3つの力は、時に神々しいほどの恐怖で、人をすくませる。
=2015年7月7日掲載=