先週の平日、1年以上ぶりに東京駅から東北新幹線に乗った。運よく晴天で、大宮付近では富士山も、キラリと顔を出してくれた。
窓際のシートだけが、ほぼ満席。隣りのいない自由席でのんびり車内誌をめくっていると、車掌のアナウンスが「オフィス車両」の存在を告げた。
場所は8号車。電話もできるし、ズーム会議も可能。自由席の人も歓迎だという。
そこで、通路を歩いて8号車を見に行った。
ドアが開くと…、だれもいない? いや、後ろから2列めに、スーツ姿の中年男性が1人座っている。おそらく、新聞を大きく広げて読んでいたのだろう。その姿勢のまま、お口を開けて爆睡中。ん? 「オフィス車両」って、こんなにのどかな雰囲気なわけ? まるで昭和時代の暇なオフィス、そのものである。
「オフィス車両」が殺気立った雰囲気でなかったことにひと安心したわたしは、前方の窓側の席に、どさっと腰をおろしてみた。
今思えば、コロナの前は実に忙しかった。クライアントA社との会議のために新幹線で移動しているのに、走行中にデッキに出て別のクライアントB社と電話で原稿のやり取りをして、メールで入稿をすませる。そんなことが日常茶飯事だった。周りには似たような人が無数に乗っていた。
あの頃、こんな車両があったらよかったのに……と、心から思った。
それに、座席でWEB会議を、さあどうぞ! といわれたところで、ここまで閑散としていると、話の内容は丸聞こえ。参戦するには勇気がいりそうだ。
ちなみに、その日の帰路も「オフィス車両」に乗ってみたのだが、今度は乗客がわたし1人だけ。完全に貸し切り状態だった。
コロナ禍に背中を押されるようにして、遅れてやってきた、オフィス車両。
その行き先や、いずこへ?
=2021年12月24日掲載=