カラフルな彩りを重ね着するようにして、秋が深まってきた。心に浮かぶのが、子どもの頃から慣れ親しんだ、故郷の水田風景である。
パーン!パーン!と鳥を威嚇する鉄砲音が遠くから聴こえてくる田んぼで、手作りのかかしたちがスズメの来襲に目を光らせていた。
防鳥網や、キラキラ光る防鳥テープ、目玉風船等の新型兵器に年々押されながらも、踏ん張っていた人型かかし。彼らはこの秋も、ひょうひょうと敵をだまくらかしているのだろうか。
かかしは、アニミズム的神様の一種で、古くから信仰の対象だったという説もある。実際、古事記にも登場するらしいが、実感から言うと、もっとテキトーな存在という気がしないでもない。
面白いのは、人がスズメを(鳥なのに)一人前の判断能力を持つ存在と考えて、緩やかな心理戦を挑んでいるところ。つまり、敵である害鳥の「人格」ならぬ「鳥格」を、秘かに認めている事である。
追い払ってやる! ではなくて、だまされてくれるかな…?ダメ…?とそっと尋ねている、力の抜けた感じがいい。
敵ながらあっぱれ!とか、好敵手と書いて「とも」と読む、とか…。漫画や劇画では当たり前の、よきライバル関係が、かかしを挟んで、人と鳥との間に成立しているのである。
翻って、野良猫を追い払おうとして、庭にペットボトルを並べる作戦がなかなか功奏しないのは、人からのリスペクト(尊敬)のされ方が、猫にとって、いささか物足りないのかもしれないな?などと考える。
かかしは、相手をコテンパンにやっつけるのではなく、そこそこに勝利する、成熟した大人の戦い方を教えてくれる。
この方法の応用編は、わたしたちの普段の生活の中にも、わりと見つかりそうである。
=2015年10月20日掲載=