今年は桜の開花が早かったが、吹雪くのも早かった。
わたしの街では、今月初めにはもう花びらが風に舞い、SNSのタイムラインは、降り積もる花びらの写真で埋まった。
ピンク色の桜吹雪写真に、先輩クリエーターのIさんがこんなコメントを書き込んでいた。
「この後に桜蘂が降って、道が紅く染まりますね。」
うむむ、難しい漢字だな、読めないぞ。「桜蘂」って、そりゃ何だ?
慌てて調べてみると、桜蘂とはサクラシベと読んで、「桜蘂降る」という俳句の季語があるそうだ。
聞いたことのない言葉だったが、きっと桜の花についている赤いガクと紅色の爪楊枝のような茎のことを言っているのだろうと、ピンときた。
さて、その半月後、わたしのランニングコースも、I先輩の予言どおり、紅く染まった。「そうそう。これこれ、これが桜蘂よ」とわかった気になり、鼻の穴を膨らませる。走りながら「ん?しべって、おしべ、めしべのしべなのかな。ひょっとしたら、わらしべ長者のしべもそうかも…」などと、ブツブツひとりごと。
それにしても桜って、何とまあ、起承転結のはっきりした花なのだろう。
遠い街から届く花便りから始まって、花見、夜桜、花衣、桜餅、花冷え、花曇り、そして桜吹雪。そうそう、花筏(はないかだ)や、花疲れなどという、お色直し的な場面もあったっけ。
咲きはじめの頃や満開の時期、そして散り際はもちろん、散った後まで惜しげもなく人々を楽しませるエンターテインメント。まるで、究極のフルコース料理のようだ。事実、花が散ってしまった今なお、こうして桜について未練たらしく語っているワタシ。
おなかいっぱい食べ終えて、最後に出されたデザートまで、とことんおいしい桜蘂。
ありがとう。今年もごちそうになりました。
=2023年4月28日掲載=