今月2日、竜王戦決勝トーナメント2回戦に、注目の藤井聡太4段が登場した。
日本中が期待した対局だったが、勝利は佐々木勇気5段。藤井4段の公式戦連勝記録は「29」でストップ。(それでもすごい!)
翌朝のニュースによると、敗者が「負けました…」と頭を下げた後、しばし「感想戦」が行われたという。
え?「感想戦」って何?と気になって、ネットで探してみると、何と45分もの長さの動画が見つかった。11時間以上を費やした真剣勝負の直後、そんなに長時間話し合ったのか。
見てみると「これはいい手だね~」と佐々木5段が話し掛け、藤井4段が「そうですね~」と駒を動かすシーンが延々と続いていた。
まだ駒たちを手離したくないとでもいうように、名残惜しげに対局中と同じ姿勢で将棋盤に向かって行うのが、「感想戦」の愛すべきところ。
勝ち負けだけに留(とど)まらない、「武道」や「華道」などと同じ、「将棋道(どう)」とでも呼びたくなる世界に、深く没頭する2人の姿に、思わずグッときてしまった。
考えてみれば、スポーツのアスリートらも、そういう習慣がないだけで、本当はこのような「感想戦」をしたいのかもしれない。
もちろん、ボクシングやアイスホッケーなどの選手たちを、再びリングやリンクに乗せて、さあ「感想戦」を始めなさい!などと言ったが最後。負けた悔しさをコントロールできない男達が殴り合いを始めて、けが人が出るのは必定。
殴り合いになることもなく、嫌味の応酬になることもない。そんな将棋の「感想戦」は、棋士たちが駒の一投一投に、自らの思索のエキスを絞り切ったからこその、内省的で、求道的な時間なのだろう。
2人の棋士の「感想戦」には、世間の大騒ぎをふわりと飛び越える、不思議な魅力があったのだった。
=2017年7月14日掲載=