「あぁ、手帳まだ買ってない!」などと、年末になって騒ぎ出す仕事仲間が必ずいる。
文房具屋に走る彼らを涼しい顔で眺めていた。こちらは「1月始まり」ではなく、「4月始まり」の手帳の愛用者なのである。
移動の多い生活において、手帳は行動の道しるべだ。なのに先日、そんな大切なものを、浜松町の駅で落としてしまった。
青くなってウロウロしていると、数分後、見つけた人がケータイに連絡をくれた。「飛行機に遅れたくないし、どうようか迷ったんですがね」と、モノレールの改札に現れたその人は言った。
開いたまま手渡されたその最終ページには「この手帳を拾ってくださった方には、十万円を差し上げます!携帯の番号は……」という文字が踊っている。
まるで、コントのようである。手帳を買ったその日に、ふざけて書いた記憶がよみがえってきた。
驚いて、「あ、十万円?」と、顔を見あげた。すると、その人は「いりませんよっ」と、むっとした表情をして、立ち去ってしまった。
あらかじめ落とす予定でいたような文面が恥ずかしく、「書くなら、百万円って書きなさいよ!」と、数ヵ月前の自分に自分でツッコミを入れてしまった。
さて、まだ今年の手帳をお探し中の方、4月始まりの手帳はいかが。春という季節が持つ「心機一転感」と、新しい手帳は、きっとウマが合うはずである。
=2013年2月7日掲載=