何度か一緒に仕事をしたNくんから、メールがあった。彼は広告会社で営業を担当する、草食系男子。
新規の仕事の予算規模、オンエア時期などが書かれたメールの最後に、さらりと「社長は女性の方で、元は男性の方です」という一文が、添えられていた。
目をパチクリさせたわたしは、思わずパソコンの画面に、がぶり寄った。
早い話、生まれた時は男だったが、性転換して女性になった人が、クライアントの社長だということだ。
今まで大勢の社長さんにお会いしたが、想定外のケースに、なぜか興奮。
翌週のスタッフ打ち合わせは、みんなが我先に、はるな愛ちゃんと仕事をした体験談やら、タイのニューハーフショーでの見聞やらを、しゃべりたがった。
当然わたしも、普段は出さない方向のアイデアを発表して、受けを狙う。
しかしNくんは違った。
実はわたしは日頃から、ガツガツお得意先に食い込んで行かないNくんを、少し物足りなく感じていた。
だがその時の彼は、性別を根拠に、他人をちゃかし揶揄(やゆ)する言葉を、一切口にせず、孤峰のごとく屹立(きつりつ)して、その場に存在していた。
「今年の担任は女の先生かぁ~。ついてな~い」
「あそこの家では、お父さんが、子供の弁当を作るんだって。変なの」
「女のコピーライターなんかに、大切な我が社の広告は任せられんね」
ジェンダーによる偏見は人の世を生きにくくする、悪しき石つぶてである。
いつもと同じだったNくん…。ついつい、はしゃいでしまったわたし…。
わかっていることと、行動することは違う。
頼りなさげな草食男子、やる時はやる!
=2013年7月23日掲載=