夕方、仕事の移動で飛び乗ったタクシーの冷房が、効きすぎている。運転手さんと軽口を交わしながら窓を開けていると、想定外のお囃子が聞こえてきた。
素通りできない何かを感じて、思わずタクシーを降りてしまう。
数分歩くと、そこはサウナか熱帯植物園のような人いきれである。
首に手ぬぐいを巻いた日本びいきの旅行客が、まっ赤な顔から湯気を立てて、日本の猛暑に耐えている。
浴衣姿の若いお母さんたちは、片手でベビーカーを押し、反対の手に持ったうちわで、バタバタとベビーをあおいでいる。
老若男女が、押し合いへし合いしながら、坂道を歩いていく。
そのとき、ホオズキや軽食の屋台のなかに、ライオンズクラブの看板が見えた。緑の「福島」の二文字が目に飛び込んできて、不意を突かれた感じになった。
それは復興支援のテントで、福島産の樽酒が、一杯いくらで飛ぶように売れている。
数軒先にも、「ひとつになって 浜・中・会津 女性パワー」という垂れ幕を掲げた福島の商工会議所のテントがあり、しっかり行列ができている。
一瞬、こみあげるものがある。故郷への愛と後ろめたさが、心のなかで交錯する。
「さぁ、テントの方へどうぞ!」とでもいう風に手を動かし、思わず無言の呼び込みを始めている自分…。
そのしぐさの幼稚さに気がついて、わたしは少し、ハッとした。
=2012年8月2日掲載=