「はい。おみやげ」と、仕事仲間のOちゃんがビールをくれた。「ファミマにあったから買ってみた」
「あ、噂の誤植ビール?なぁんだ、目立たないじゃん」問題になった文字は思っていたよりずっと小さい。柿の種よりまだ小さい。
メディアで話題になったので、ご存知の方も多いだろう。ラガービールのスペル、正しくは「LAGER」と綴る。だが、このビールのパッケージを担当したデザイナーは、「E」を「A」に間違えて文字を「LAGAR」と組んでしまった。
いかにも起こしがちなミスではある。ふつうチームのコピーライターか宣伝部の誰かが見つけそうなものだが、このパッケージはチェックの目をかいくぐって、誤植のまま製品化されてしまった。
さて、それに気づいた製造元のサッポロビール、発売日の4日前になって販売中止を決定。だが、一件が報道されると、SNSを中心に「すでに製造された食品を、スペルミスくらいで廃棄するのはもったいない」「EじゃなくてもAじゃないか」などの声がわき起こった。食品ロス削減推進派の国会議員も黙っていなかった。
そこで状況は一転。発売中止は撤回され、誤表記のまま売り出されることに。
AでもEでも味に変わりはないわけだから、お蔵入りにならなくてよかった。想像だが、これで担当者の首の皮もつながったんじゃないだろうか。宣伝になったし、誤植転じて福となす。
でも、ビールを飲んでもいないのに、わたしは少しほろ苦い。同業者の広告屋としては、あすはわが身の怖さがある。おっちょこちょいのわたしにとって、誤植は史上最大の天敵。英語の試験と刷り上がりの誤植は、時々夜中にうなされる、見たくない悪夢の2つなのだ。
=2021年2月12日掲載=