先日、仕事終わりの雑談で、みんな一体何が怖い? という話になった。
犬、ヘビ、高いところ、狭いところ、という話が次々に出る。ふむふむ、そうよね、怖いよね。
そういうわたしは、何をおいてもハチが怖い。一度スズメバチに刺されたことがある。だからいつでも、野外ではビクビクだ。できるだけ白い服を着るのも、あのショッキングな痛みを2度と味わいたくないからだ。
そのうちにSさんのカミングアウトがはじまった。頭を剃り上げた強面のディレクター、Sさんがつぶつぶ恐怖症だと、はじめて知った。彼は、小さなつぶつぶの集合体が何より怖い。納豆や数の子を見ただけで息が苦しくなるという。そんなのあり? だけどどうやら本当らしい。
「最近、奥さんがベランダのプランターにムスカリを植えたの。花びらがつぶつぶしてて、近づくだけで鳥肌が立つのよ」と、Sさんはいかにもビクつきながら言った。
すると、なにそれ。ムスリム? え、ユスリカ? とみんなが勝手な反応をしはじめた。「ほんとは、奥さんが怖いんじゃないんですか?」と誰かがまぜっ返して、おしゃべりタイムは終了となった。
さてその翌日、朝ランをしていると、水路の脇にムスカリを見つけた。4cmほどの小さな花だ。ほほう、意外とあるもんだ。たしかに、紫色のつぶつぶがパラソル状に花の形をつくっている。ふーん、この花を見るとSさんは鳥肌が立つのか…。
思わぬものを人は怖がる。好きなもの、大事なものも、人の心は千差万別。
6万年も前のネアンデルタール人の遺跡からも埋葬花として発見されたというムスカリ。もしや彼らも、このつぶつぶを、悩ンデルタールだったりして?
=2021年4月9日掲載=