年下の友人数人が自宅に遊びに来た。トランプでもする?と誘ったところ、ハタチ前後の彼らは、ほとんどルールを知らないという。マジか?! と、思わず若者言葉でつぶやくわたし。
そうよね。今時、カードゲームなんて流行らないよね。トランプといったら、アメリカの大統領よね。などと思っていたところへ、真夏の台風がやってきた。
トランプ? 真夏の大型台風? あ! と、記憶の糸がバシッと音を立てた。
かつて、わたしが通っていた福島市の女子高には、希望者を募って山登りをする夏休みの行事があった。わたしたちが高1だった夏にも、大型台風が迫って来ていた。
そんなことにはお構いなく、元気に出発した一団だったが、台風はぐんぐんスピードをあげて大接近。
巻き付く風にあおられながらも、何とか浄土平にテントを張ったところで、残念ながら、登山は中止に。
今、移動するのは危険だとの判断で、テントの中で雨風をしのぐことになったものの、雷鳴とともに、ビキビキッと木の割れる音が聞こえて来るし、近くにそびえるヒマラヤスギはバサバサ枝を奮って暴れるし。
同じクラスのわたしたち7人は、ビビりながら、ミシミシと豪風にたわむテントの中に固まった。
そして何かに取り付かれたかのように、3日3晩、トランプのナポレオンをやり続けたのだった。ただの1度も寝袋を開くことなく……。
16歳の夏。外界と隔絶されたテントの中には、恐怖や忍耐を超えた、疑惑や裏切りや友情や陶酔のカオスがあったのである。
もし、あの勝負を、もう1度やれたなら、あと1回り大きな人間になれるんじゃなかろうか?
実際、下山したわたしたちの洞察力は、あのナポレオンさえ驚くほど、キレッキレだったのだから。
=2018年8月10日掲載=