「この武道館公演の興行収入と、グッズ収入のすべてを、熊本に寄付しますなっし~!」
そうふなっしーが口にすると、アリーナから2階席の最上段まで、1万2000人の観客でギッチリ埋まった館内の空気が、ぽかーんと宙に浮いた。それは純粋に、みんなが驚きで声も出ない瞬間だっただろう。
ふなっしーが地上に舞い降りたのは4年前。最初は地元の船橋市からも相手にされず、全国各地のご当地キャラ・イベントに参加することさえ許されなかった。
「いつかは武道館で!」という夢を、まるで弾みのように口にしたのは、2013年。自身で作詞作曲したファースト・シングル「ふな ふな ふなっしー♪」発売時の記者会見での発言である。
そして今年、8月23日、とうとう、夢の「ふなっしー」単独ライブが実現。ここまでの道のりは、並大抵の茨(いばら)ではなかった。30分間が体力の限界だというのに、イベントではみんなを喜ばせたくてムリをするから、酸欠で目の前が真っ白になるようなピンチを、何度も経験した。
静まった館内に、ふなっしーの言葉は続いた。
「自然災害の多いこの国は、昔からずーっと、皆で支えあってきた……そういう民族じゃないかなっし~?」
そ、そうだったはず…。
「ふなっしーが寄付するんじゃないなっしよ。ここに来てくれたみんなで、することなっし~!」
ふなっしーは今までだって「南三陸ミシン工房」にグッズの製作を依頼し、「みちのく未来基金」を通じて、震災後の東北の子供たちを応援し続けてきた。
だが、今度という今度は、ワタシ、マケマシタワ…。
その後、ふなっしーは、ワイヤーロープに吊るされて、まさかのフライングで宙を飛び、館内がどよめいた。
だが、その姿は、止まらない涙で、少しゆがんで見えたのだった。
=2016年9月6日掲載=