またしても、大きな自然災害が日本を襲った。被害に遭われた方の日常が、1日も早く戻りますように。
そんなタイミングで、地域の救命講習会の順番が廻って来てしまった。会場には100人ほどの老若男女が集合。
壇上で説明する講師から、心臓マッサージ=胸骨圧迫のやり方と、AED(自動体外式除細動器)の使い方を教わった。
配られた練習用キットの袋の中には、人体が描かれたシート「あっぱくん」と、ピンク色のハート形クッションが入っている。
始めは心臓マッサージの練習である。「ここにハートを置いてください」と書かれた文字の上に心臓を模したハートを置いて、何度も何度も、それを押す。
しっかり強く押した時だけピコピコと音が出て、力の入れ方がわかる仕組みである。
だが、練習を続ける内に、わたしはだんだん不安になってきた。「ハートマークにハートを置いて。はい押して」という練習に、もどかしさを感じ始めたのである。現実には、何を目印にして押せばいいのだろう? 不安が募って、AEDの練習後、後片付けをする講師に、にじり寄っていった。
「先生、もし、わたしが倒れていたらどこを押しますか。具体的に教えてください」と聞くと、「ここです。目標は、乳首と乳首の真ん中です」と、先生は、わたしの胸の間をおずおずと指さした。「それは男女どちらも?」「そうです」
聞いてよかった! だいたいあの辺り、なんて適当に覚えていた日には、きっと胃の辺りを思いっきり押したりして、大変なことになっていましたよ。講師の先生、最初からそのキーワードをいってくれれば、いいのに……。
皆さんも、誰かにモノを教える時は、キットを使った練習で十分だなどと考えずに、するべきことの肝を、身体で教えてやってください。
そう。それが、現場主義。
皆の最後に修了証を受け取って、会場を後にした。この知識が役に立つ日が来ないことを、祈りながら。
=2018年9月14日掲載=