大きな声ではいえないが、「聞き耳」はわたしの特技の一つ。例えば食事でお店に入ったら、店中のお客さん全員の注文を、いつだって何喰わぬ顔で聞いている。
さて、そんな「聞き耳女」が、先々週末、東京国際フォーラムで開かれた「アートフェア東京2018」に出掛けていった。
これは、アジアで最も歴史のあるアートの即売市で、国内外164のギャラリーが出展。聞こえてくる言語も、日本語、英語、フランス語、中国語など多国籍。
並んでいるのは、北斎の版画や明治時代の象眼細工から、液晶モニターにアクリル蛍光絵の具を塗りつけたような、今をときめく現代アートまで、多種多彩。
美術館とはひと味違う、売らんかな買わんかなの熱気が、人々の沸点を押し上げているようだった。
会場をうろつきながら、あるブースの前を通ると、ドヤ声が聞こえてきた。
「この子は日本一になりますよ!」おそらくやり手の画商なのだろう。身なりのいいコレクター相手に、若手アーティストを猛烈に売り込んでいる。
へえ〜と、思わず立ち止まって、聞き耳を立てていると、画商は続けた。
「10年後には、もっと日本一になりますから!」
えーっ! 画商の熱量と比例するように、「聞き耳女」のボルテージもいきなりマックスに。もっと日本一って、何? それをいうなら、10年後には世界一、でしょうが。
立場のある人がそんな了見だから、日本の家電はガラパゴス化して、世界に通用しなくなったのよ。
イギリス育ちのカズオ・イシグロにノーベル文学賞を持っていかれちゃうのよ。(ちょっと違うか?)
そして、アートよ、お前もか。国際的なイベントに出店している画商の割りに、内向きなのね。世界に対峙していないのね。と、人知れず地団駄を踏んでしまう。
たかが聞き耳、されど聞き耳。
人に自慢できないこの特技は、時々、この国の弱点さえも拾ってしまう。
=2018年3月23日掲載=