ある夕方、東西線でスマホが震えた。見ると、得意先が早急にコピーをほしがっている。仕方ない、次の駅で降りて仕事するか。
駅前のマックに入って、列に並ぶ。先頭にはサッカー少年が3人。二番目はジャージの上下を着た、腕っ節の強そうな 30歳くらいのカップル。その次がわたし。列が進まないのは、少年たちが原因らしい。
見ていると、合計額が出るたび、ドリンクのキャンセルや、ポテトのサイズ変更を繰り返している。店員はスマイルを絶やさず根気よく応対している。
他の店に行こうか? と考えていると、カップルの女性が「おまえたち、足りないのは、たかだか百円なんだろ? やるよ。気にすんな」といって、カウンターに、ホイッと百円玉を転がした。
「いいんですかぁ〜。じゃあ、君たち、ここは甘えちゃおっか?」と子どもらに向かって、取りなす店員。
だが男の子たちは、頑なに辞退。その態度に、「いいよ。わかったよ」といって、女性は百円玉を引っ込めた。
順番がくると、彼女はポテトのLをひとつ余分に買った。そしてそれを少年らのテーブルにポイッと投げ出し、「モノならいいだろ。ほらよっ」といった。
ようやくわたしも一安心。隅っこの席で、ノートパソコンをパチパチと打ちはじめる。
数分後、横目で見ていると、帰りかけた少年たちが、カップルの席に向かってゾロゾロと歩いて行く。そして、ポテトの袋を無言で突き返した。
(まさか、一口も食べなかったの? あ〜あ、きっと冷えちゃったよね……)
背中越しになった女性の表情は見えなかったが、帰り際、男性がポテトを勢いよくゴミ箱に投げこむところはよく見えた。
残念! ストレートな人情と幼いプライドは、思いのほか仲が悪いのだ。
気が付くと、仕事の方も、残念! と叫びたいほど、進んでいない。わたしは、慌てに慌ててしまった。
=2019年2月22日掲載=