先週、伊豆七島の八丈島で、撮影の仕事があった。かつての秋は新婚旅行で人気だったというこの島も、今や完全なオフシーズン。アロエとハイビスカスの花だけが、咲き誇っている。
気温は19度だが、太平洋から駆け上がって来る強風が、思いの他、キツい。
撮影ポイントへ移動する道々、案内の人が、あれが八丈小島です!この前、テレビ局も取材に来たんです!と、西の海を示す。
指の先に、おにぎり形をした美しい小島が浮かんでいる。あぁ、この島の事か。
わたしは先日、偶然見た、八丈小島が無人島になって今年で45年が経つという、ニュースを思い出した。
かつては500以上の島民が住んでいた。だが、昭和40年代、急速な経済成長下、東京都の電気や水道等のインフラ整備が、追い付かなかった。結局、住民による話し合いのすえ、全国に例のない全島一斉引き上げを断行。島民全員が、7・5キロの海を渡って、八丈島本島に移住した。
ニュースを見ている時には、遠い昔の出来事でしかなかったが、実際にその島を目にすると、歴史の断片が、胸に迫って来た。
その日の夕方、撮影を終え、海沿いの道を宿舎に向かって車で移動していると小島を目がけて、時空を朱に染めるような晩秋の太陽が、みるみる沈んでいく。
移住した元島民の人たちは、さほど離れちゃいない故郷の島が抱きしめる夕日を、どのような思いで見つめていたのだろうか…。
昨春、人が住まなくなった八丈小島に、絶滅危惧種のクロアシアホウドリが巣をつくり、卵を産んだことが、確認されたという。
自然にとって、無人島であることは、何も悲しいことではない。寂しげな顔を装いながら、島は新しい命の繁栄に、どこか寛容である。
=2014年12月2日掲載=