近頃、コマーシャルのスポンサーは、首都圏の大企業に限らない。わたしも地方への出張が増えている。
朝の飛行機で羽田を出て得意先に直行し、ミーティング。ご当地で遅いお昼を食べ、空港のラウンジでパソコン仕事しながら、時間待ち。夕方の便で帰京する。
「100回以上来たけど、毎回とんぼ返り。阿蘇なんて1度も行った事ない」と、熊本で乗ったタクシーで何気なく話すと、運転手さんは「そぎゃん人生、とぜんなか…」と、悲壮な声をあげた。
「大丈夫。子どもの頃、吾妻小富士に、何十回も登ってるから!」と笑って受け流すことさえできなかった。
確かに、新潟には何度も行ったが、佐渡は知らず、札幌でも、話題のモエレ沼公園は未見。「とぜんなか=寂しいやつ」だと思う人も、いるかもしれない。
そこで昨年、初めて福岡の会社から仕事が舞い込んだ時、運転手さん言うところの「とぜんなか人生」を返上することにした。
初回の打ち合わせ前日に現地入りし、名所を回ってやろうと思ったのだ。
だが、計画はままならず、結局、福岡空港に到着したのは、打ち合わせ当日。残り4時間しかない、タイムトライアルの様相である。
そこで、空港から地下鉄で天神へ。西鉄に乗り換えて久留米に向かう。駅待ちのタクシーに、行ってほしい名所を2つ告げる。こちらの意図を完ぺきに理解してくれた運転手さんは車をブンブン飛ばし、記念写真のシャッターをシャカシャカ切って、無事、時間内に九州新幹線の久留米駅まで運んでくれた。
博多まで話題の「つばめ」に、20分間、乗車するおまけまで付いてきた。
ちなみに、この日の行き先は、歌手の松田聖子の実家と母校。ま、彼女のファン以外の人には、よくある普通の民家と学校。訳の分からぬ「名所」なのだが。
=2014年2月4日掲載=