今年の1月に番組が始まった頃、仕事仲間や友人から、「八重の桜」見てるよ!と、よく声を掛けられた。
会津とは細い縁でしかつながっていないわたしのような者にまで、熱いエールが飛んで来たのである。
その後、物語が重苦しくなるにつれ、周りから視聴離脱組が増えてしまった。
意地になって見続けているわたしは、先月の大阪出張の折、京都に残る八重らの私邸「新島旧邸」まで足を伸ばした。
建物は、白壁に茶色のベランダ、窓に鎧(よろい)戸の、木造洋風2階建て。
フローリングの床に、セントラル・ヒーティングの暖房。システムキッチン、洋式トイレ、オルガン…。明治になってわずか11年後の建築だとは信じられないようなモダンさである。
驚いていると、茶室の隅にポツンと置かれた小さな鏡台が目に留まった。
女性にとって鏡とは「ひみつのアッコちゃん」の魔法のコンパクトよろしく、「変身」を手伝ってくれる精神的な道具に違いない。
めまぐるしく変身を繰り返した八重の鏡が、モダン建築の中で異彩を放つ質素な座鏡だった事に、興味を引かれて見入ってしまう。
会津の武家の娘から、幕末のジャンヌ・ダルクへ。さらに、同志社を率いるハンサム・ウーマン、そして日本のナイチンゲールと呼ばれるまで、華々しくステージを変えた彼女の人生。だが本人は特別、転身などと思わなかったのかもしれない。
正義と信じるなら、敵がどんなに強くても、怖気づかずに立ち向かう。ぶれないその姿が、激変する時代や環境との対比において、激しい変身を遂げたように見えただけなのだ。
庭に桜の木を探したが見当たらず、はらりと舞い落ちた一枚の紅葉をおでこに乗せて、旧邸を後にした。
=2013年11月19日掲載=