先月、ビッグ・ニュースが飛び込んできた。何と、日本の金融の心臓部、大手町に温泉が出たという。
さっそく出掛けてみると、ゼネコンの社旗やメッシュの囲いが目に付く。連鎖型都市再生プロジェクトとかで、老朽化したビルの建て替えが進行中である。
聞き込みをしながらたどりついたのは、一昨年完成したフィナンシャルシティのふもとの散歩道だった。街灯に美術展のポスターがはためき、カフェが並ぶ小道の隣地が、どうやら掘削現場のようである。
工事の車両ににじり寄って、関係者らしき人に、温泉見せてもらえませんか?と掛け合ってみる。と、ムリムリ!温泉って言ったって、地下1500メートルだよ、めちゃ深いんだよ、と言われてしまう。なるほど。映画で石油が湧く時みたいに、プシャーと勢いよくお湯が噴出しているわけではないらしい。
仕方がないので、最近できた、日本橋川のほとりの人工的な遊歩道を、とぼとぼ歩く。
清少納言は「湯は、ななくりの湯、有馬の湯、玉造の湯」と言ったっけ。わたしだったら、「湯は、ハワイアンの湯、二岐の湯、穴原の湯」かな、などと考える。子供時代に、ウォータースライダーや急流で遊んだ事のある場所ばかりだ。
わたしたちの故郷、ふくしまには、たくさんの名湯がある。海外からのお客様だって、ちょっと足を伸ばしさえすれば、(運がよければ)客室から、渓流の涼しいせせらぎを望めるだろう。風の音を聞きながら、お湯と戯れる事もできるだろう。何も温泉まで、大手町が一人占めしなくてもよいではないか。
ふくしまへ来らんしょ。
故郷への思いは、いつだって、ふいに湧き上がる。まるで、永遠に尽きることのない豊かな水脈のように。
=2014年8月5日掲載=