数日前、深夜タクシーに乗ると、運転手さんがバックミラー越しに聞いてきた。
「お客さん、清水ミチコ?…じゃないよね?」
わたしは、またか、と思いながら、ハハハ~と、笑う。
有名人に似ていると言われるだけでも、光栄ではないか。まして相手は、モノマネもピアノも上手なミチコさん。なのに、毎回思わずムッとしてしまうのは、自分の方が若く見えるのに…と、思い込んでいるからだろう。
だが、終電も行ってしまった真夜中に、テレビ局のある通りで、仕事帰りの車を拾うこちらにも責任はある。
そう言えば、先月もタクシーで勘違いされたっけ。アベノミクスがどうのと、ひとしきり世間話を弾ませた後になって「お客さん、アニメの声優さんでしょう?」と振られたのである。
確かその時も、車を拾ったのは録音スタジオの玄関前。そんな場所で乗るからには、ひょっとしたら芸能関係者?と推測されても、文句はいえない。
しかし、運転手さんは乗客の素性を見抜くプロではないか。紛れもなく、わたしの言葉にはネイティブ福島人のアクセントが残っている。そんなわたしに、声優ですか?と聞くなんて、ひょっとして、焼きが回っているのではなかろうか。
つらつら考えている内に、待てよ、彼はなぜ、ただの声優ではなく「アニメの」を付けたのだろうか?と、そんなことが気になり始めた。
どうして、アンジェリーナ・ジョリーやエマ・ワトソンの吹き替え役ではいけないのか。
思案しながら、ふいに、あ!と思った。
そうか。清水ミチコには悪いが、わたしたちには共有しているものがある。
どちらの顔もマンガ系。だから「アニメの」なのだろう。
=2013年10月1日掲載=