20世紀の終わり頃、働く女性たちが「親父ギャル」と呼ばれた時代があった。
日焼けした肌に長い髪。趣味はゴルフ。居酒屋ではお絞りで顔を拭き、股を広げてギャハハと笑った。
しばらくして、仕事仲間の男子が、小さなヴィトンのバッグを肩に掛けて会議に現れるようになった。当時の男性は、いつも手ぶらが当たり前。小物を持ち運ぶ彼が、ひどく女性的に思えたものである。
その後、男性が女性用の小さなロレックスを腕にはめたり、女性がスニーカーをはいて出勤したり……。
こうして振り返ってみると、身なりの男女差は、ジワジワと時間を掛けて、双方から埋まってきたような気がする。
そして最近目立つのは、「日傘男子」の存在である。こちらの流行は、続きに続く猛暑日が、引き金か。
人目を気にせず、自分で日陰でも作らないことには、外回りで死んでしまうかも! と考えるほど、事態は深刻。
そんな先週、わたしは暑さにめげつつ、第一京浜沿いを歩いていた。そういえば、見上げる三菱自動車本社ビルも、年末には、田町駅前の新ビルに移転しちゃうのだ。
社屋の前には「西郷隆盛と勝海舟、会見の地」の立派な記念碑が建っている。
慶応4年。この地で相対した2人は、江戸を戦火から守るため、江戸城無血開城を話し合ったのよね。
と、バテバテながら、思わず回想にふけるわたしの横を、グレーの日傘を差した、細身のビジネスマンが、すーっと追い抜いていった。
灼けつくような日差しを物ともせず、足早に遠ざかる「日傘男子」の後ろ姿は、いたってクール。
大火から江戸の町民を守るために行われた会談。そして、猛暑からみずからを守るために差す日傘。
いつの世も、ちょっと先を行く人は、プライドや常識を飛び越えて、一番大切なものを選ぶのである。
=2018年7月27日掲載=