今年の日本シリーズは、日本ハムの優勝。テレビで見る栗山監督は、いつもコーチと談笑しているばかり。確かに、烈火のごとく怒り狂っている監督よりは、選手も働きやすいだろうなと思った。
同じことが、仕事でも言える。
わたしがこの春に担当したコマーシャル動画の撮影でも、プロデューサーのNさんは、いつだって朗らかだった。休憩時間には、個人的な夢であるワイン造りについて熱く語るばかり。そのせいか、出演のタレントさんもクライアントも和やか。撮影は無事に終了したのだった。
チームプレイの場合、上に立つ人が、怒りンボでは、やっぱりダメなのである。
さて先日、そのNさんから、ついに福島の大玉村と長野の上田市に休耕地を借り、今月末、ぶどうの苗を五百本植えることになったと、弾んだ電話があった。
興味を引かれて、よく聞いてみると、仕事の合間を縫って、一年以上、コツコツ村に通って友人を作り、ようやく土地を借りる算段がついたのだと言う。
だが、その圃(ほ)場は、5年以上放置されていた薮(やぶ)状態。生まれて初めての刈払い機を手に、必死の思いで開墾。竹で添え木を作るために竹林で振るっていたチェーンソーに、危うく太ももを切られそうになったりもしたらしい。
素人のチャレンジと言ってしまえばそれまでだが、日本の農村の廃れぶりを嘆くNさんの思いは本物である。開墾のためにかさんだ当初の予算は「ワインで地域を元気にする会」を立ち上げ、クラウド・ファンディングという新しい手法で広く出資者を募り、自身の夢をつなぐ計画だ。
収獲できるようになるまでには、最低でも3年……。
2020年、福島県内の野球場で、五輪の予選が行われる頃、美しいブドウの実が、風にそよいでいるのだろうか。
=2016年11月15日掲載=