先月「シュガーマン」という映画を見た。
2月にアカデミー賞を受賞した長篇ドキュメンタリー。いわゆる、凱旋上映というやつである。
主人公は、1970年前後に、その音楽性からボブ・ディランにも比較されたシンガーソングライター、ロドリゲス。
「シュガーマン」というのは彼の曲のタイトルで、シュガーとは砂糖ではなく白い粉。つまり、ドラッグ。彼は、よく通る深い声で、光あふれるアメリカの影をなす貧困や差別など、社会の暗部をあぶり出し、歌った。
だが、アルバムはまったく売れず、当時のプロデューサーは「全米で、たった6枚しか売れなかった」と回想する。
そして、神格化されていくボブ・ディランとは対照的に、アメリカの音楽シーンからあっさりと姿を消すのだった。
ストーリーは、そこから始まる、嘘のような本当の話。わたしは付けまつげが取れるほど涙した。
成功したい。うまくいきたい。認められたい……。それは、誰もが当たり前に抱く感情だろう。しかし、必ずしもわれわれ全員がその夢を叶えるわけではない。
「夢を持てば必ず叶う」という手垢のついた人生観に、この実話は、異議を突きつける。
叶わぬ夢と共存しながら生きるとき、最良なのはどのような生き方か。
この映画を見た人は、ジェットコースター的な物語の最後にきっと、その答えを知るだろう。
※福島市の「フォーラム福島」でも、6月29日から上映予定
=2013年4月16日掲載=