歴史の教科書で見ていたパンデミックを、まさか自分たちが体験するなんて。
眉間にシワを寄せて、2020年が過ぎていった。
悪いことばかりでは悔しいので、昨年の記憶に首をつっこんで、良かったことを探してみる。すると、無駄な会議や出張が減った。「背骨折れる〜」と恐怖すら感じていたラッシュの通勤が消えた。一方、ネットを通して、思いがけないものと出会えたりもした!
例えばわたしは元々、小劇場の芝居が好きなのだが、仕事に追われて、いつしか足が遠のいていた。そこに昨年、突然現れたのが、劇団ノーミーツだった。
この劇団は「NO密で濃密なひとときを」をスローガンに、最初の緊急事態宣言をきっかけに誕生した。キャスト募集から稽古、そして上演まで、演者が1度も会わず、オンラインだけで活動を行っている。
だから本番でも、演技中の照明のオンオフや、カメラをつけたロボットアームの操作までを演者自身がそれぞれ自分の部屋で行い、映像を組み合わせて生配信する。
旗揚げ公演は、Zoom授業だけを4年間受け続ける大学生をテーマにした「門外不出モラトリアム」。
2作目は、ネット上に生まれた仮想現実の国を舞台にした「むこうのくに」。
とうとう年末には、3作目「それでも笑えれば」が上演された。2020年という年がわたしたちに突きつけてきた「どうしてもゆずれないものは何だ?」の答えを必死に探そうとする若者たちの物語だった。
チャット機能を使った観客の投票で主人公の運命が決まる手法も実験的。ヒリヒリする言葉と表情。画面越しに迫ってくる不思議なリアリティ。これ、どんな演劇をも超える本当のリアリティなんじゃないか?
自室の灯りを消して、たった1人の小劇場で膝を抱えていると、小さな液晶画面が涙でにじんだ。
時代にまっすぐ対峙することで生まれた、新しい演劇の形に、乾杯(完敗)!
=2021年1月8日掲載=